そして次の日。
あたしは午前のバイトを終え、
エレアコとアンプ、マイクを持って街へ出た。
今日は路上ライブの日だ。
ファンの子も来てくれるはず。
あたしは東京へ来てから4年間、ずっと同じ駅前で続けている。
初めは誰ひとりとして聴いてくれなかった。
冷やかしもあったし、馬鹿にされたりもした。
でも負けないって誓った。
あたしにはおばあちゃんもいたし、ミナトもいた。
でももう――――――
そんなとき、手を叩く音が聞こえた。
あたしは回想の果て、3曲目を終えていたのだ。
「あのっ、あなたもしかしてスピカのボーカルの方ですかっ?」
「えっ、あっ・・・はい!」
「わあ・・・やっぱり!私、スピカ応援してます!」
「あっ・・・ありがとうございます・・・!」
あたしよりずっと若い高校生の女の子。
二つ結びが青春って感じ。
見たことない顔だったけど、新しいファンの子らしい。
じわじわと心が温かくなって、そのせいか目頭までぐっときた。
鼻の奥がなんとも言えないくらいツンとした。
幸せな痛みだった。
「じゃあ・・・もう1曲。」
あたしはCのコードを弾く。
これは確か、上京の直前に書いた曲だ。
ここから離れる寂しさを全て英語で綴った。
高校の時のイギリスのホームステイが活きた。
―――そして終わったころには行きかう人が見えなくなるくらい
たくさんの人が輪を作っていた。
たくさんの拍手。
たくさんの表情。
そしてあたしが感じるたくさんの幸せ。
「ありがとうございました・・・!」
そしてあたしはたくさんの笑顔を贈る。
――――それのお返しに、と。

