「わたし……に?」
「そう、『わたし』に」
言って、嘲笑のような苦笑のような、良くわからない笑みを浮かべた。
「秋の演奏会、僕のいとこが出てたんだ。
それで見に行って、先生の演奏をたまたま聞いた。
凄く感動したよ、僕の全身に衝撃が走った。
まるで雷にでも撃たれたようだった」
赤根くんのうっとり回想する表情に、私の方は全身に戦慄が走る。
「あんなにも心に響くピアノは初めてだった。
僕は運命を感じた。
先生、あなたは――
僕の運命の人だ」
赤根くんはゆったりとした動きで、私の左頬をすーっと愛おしそうに撫でた。



