全部、私からだった。 ~AfterStory~



 突っ立ったまま呆然と赤根くんを眺めていると、そんな私に気付いた赤根くんが、

「先生? どうかした?」

 不思議そうに小首を傾げて尋ねてくる。

 何事もなかったような、無邪気なほどに陽気な様は、余りにも不自然で。
 不快な違和感に胸がムカムカする。


「え? あ、うん。
 ねぇ赤根くん、レッスン始めよう。
 せっかくだからそれ、時間が余ったら後で頂くね」

「あの女の言ったこと、気にしてんの?」

「『あの女』って……
 お母さんじゃない」

 無理矢理に笑みを浮かべて、冗談ぽく指摘してみた。


 たちまち赤根くんの顔から表情が消えた。
 そしてスッと立ち上がると、私を冷ややかに見下ろして、

「その呼び名、やめてくんない?」

 感情の全くこもっていない声で、低く静かに囁いた。