どうしよう、どうしよう。 あまりに動揺し過ぎて頭の中が真っ白になって、動くことができない。 「今日仕事早く終わってさー」 鼻唄でも歌っているような朗らかな声が聞こえて来る。 『荒ぶる野獣』はとうとう私の前にその全貌を顕わにした。 「何だよ多恵、いきなりそっち?」 ベッドの上に仰向けに横たわったままの私を見て大きな勘違いをしたらしい彼は、にんまり笑ってそう言うと、慣れた手つきでネクタイを緩めた。 私のこの世で最も愛しい人―― りっくん。