「そんなこと言わないでください。
平澤先生の演奏、凄く好きです、大好きです。
僕も平澤先生のように、心でピアノが弾けるようになりたい。
先生ならどう弾きますか?
それを教えてくれればいい。
それだけでいいですから」
燃えるような熱い瞳で見詰められ、強く訴える赤根くんにほんの少しだけ『怖い』と感じた。
私なんかにこんなにも一生懸命で。
全力で体当たりしてくる赤根くんが不思議でならない。
だから気持ち悪い違和感が、私の中にポッコリ生まれた。
それによって、どういう訳だか私は物怖じしたのだ。
「うん、そうだなぁ……
赤根くん、勢いがあって良いんだけど、ただ終始それだと聞いてる方もちょっとだけ疲れちゃうかな。
例えばここ……」
楽譜を指で差して続けた。
「もう少し丁寧に優しく弾いたらどうかな。
速さはそのままで」
赤根くんに言われた通り、思ったままを躊躇いながらも口にしてみた。



