「ああ、ごめんね。
えっと……」
赤根くんの演奏は完璧過ぎて、言葉が見付からず口籠ってしまった。
「先生、もしかして他事考えてて聞いてませんでした?」
悪戯っぽく笑って赤根くんは冗談めかして言う。
掛ける言葉もタイミングも雰囲気も完璧だ、本当に高校生なのだろうかと疑わずにはいられない。
「そんなことない。ちゃんと聞いてたよ。
ただ……
ごめんなさい、私やっぱり――
赤根くんは私が教えられるレベルじゃないと思う。
だって、私よりずっと巧いんだもん」
私としたことが。
講師らしからぬとんでもない言葉を何も考えずに吐いてしまって、すぐに激しく後悔した。
ああもう、嫌だ嫌だ。
逃げたい。今すぐ逃げ出したい。



