りっくんは、弾かれた様にハッと我に返ると、

「悪ぃ、ごめん。
 単なる俺のヤキモチ。
 多恵は悪くねぇよ、ごめん」

 張り付けたような笑顔を見せて、私の肩に腕を回す。
 そうして優しく大切そうに抱き寄せると、いつもの様に額にキスを一つくれた。


「あのさぁ、多恵。
 うちに一人で居る時は、ちゃんと鍵かけろな」

 真っ直ぐ見下ろして、りっくんは酷く切なげな顔でそう言うと、私の背中に両腕を回してギュッと抱きしめた。



 今までも施錠を忘れていて、りっくんに注意されたことは何度もある。
 けれど、いつもは屈託なくニカッと笑って冗談っぽく怒られる。

 こんな風に苦しそうな、深刻な顔で言われるのは初めてで、何となく胸の奥がモヤモヤとしてむず痒さを感じた。

 まぁ、何度言われてもうっかり忘れてしまう私に、いい加減ご立腹なのかもしれないけど。



「うん。ごめんなさい」

 私の中に気持ち悪い違和感が薄っすら残るも、りっくんの胸に顔を埋めたまま、くぐもった声で謝った。