「姉ちゃん、いくら何でもそりゃあんまりだ。 坊ちゃんが可哀想だと思わねぇか?」 私を羽交い絞めにした男が、背後から耳元で囁く。 その下品な低いしわがれ声には、聞き覚えがあった。 そうだ、忘れてた。 『運転手』の存在を―― 「離してっ! 私に触らないでっ! 離してってば、気持ち悪い」 大声で喚き散らしながら、散々暴れてやったけど、いくら小柄とは言え相手は大人の男だ。 私の力なんかが到底敵うはずもなく。 呆気なくリビングに連れ戻された私を、赤根くんは酷く不満げな表情で見据えた。