口をつぐんだまま、ゆっくり静かに後ずさる。
けれど赤根くんも、私と全く同じリズムで歩を進めるから、一向に二人の距離は開かない。
それどころかじわじわと縮まっているように感じる。
踵を返して駆け出す、という大胆行為は、この状況じゃ通用しない。
きっとすぐに捕まってしまう。
「赤根くん、ハインリーケさん、大丈夫かしら?」
見捨てる気満々だったくせに、赤根くんの気を逸らそうと白々しく言ってみた。
今の私に『正義感』なんてものは微塵もなくて。
ただ、助かりたいという一心で、その目的だけに無我夢中で。
こんな私、りっくんに嫌われちゃうかな、とも思うけど、でも……
助からなければ、嫌われることもないけれど、きっとりっくんを酷く哀しませるし。
何より私は、もう一度りっくんに会いたい。
会いたくて会いたくて仕方がないよ、りっくん。



