けれどそれだっておかしい。
あんな身なりの整っていない男が社長夫人のお抱え運転手だなんて、今思えば余りにも不自然だ。
「でもあの人、ハインリーケさんの……」
ハインリーケさんはあの男を個人的に雇って、公には頼めないような仕事をさせているんだ。
きっと地下室に私を運んだのも彼だ。
あの男に抱きかかえられたかも、そう思っただけで全身に虫ずが走る。
嫌だ、気持ち悪い。
「大丈夫、あの男は僕たちの味方だよ」
赤根くんはそう言って小さく頷いて見せる。
その言葉も微笑みも、全部が虚構のような気がして、もう何を信じればいいのかわからない。



