全部、私からだった。 ~AfterStory~



「へ?」

 思わず間抜けな声が漏れた。

「赤根くん、ハーフなんですか?」

 確かに色白で、彫の深い顔ではあるけれど。

「驚くところ、そこなの?」

 主任は酷く残念そうにまた大きな溜息を吐き出した。



 ハインリーケ=ダフネルぐらい私だって知っている。
 シューベルトの即興曲で有名なドイツのピアニストだ。

 けれど――
 だから何だと言うのだ。


「いえ、そこだけじゃないですけど。
 だったら尚更、私に教えられることなんかないじゃないですか!」

 ムキになって言い返せば、

「奥様は愉しくピアノが弾けたらそれでいい、とおっしゃってるのよ。
 もちろん赤根くん自身もね。
 いずれはお父様の会社を継がれるから、ピアノは趣味範囲でいいそうよ」

 と涼しげに返された。