咄嗟に脇に退いて突っ立ったまま何となく眺めていると、それは滑らかに減速し、そうして私の目の前で停車する。
運転席から一人の中年男性が降り立ち、私の側へ回って後部座席のドアをおもむろに開けた。
無精髭に乱れた長めの黒髪、小柄でずんぐりむっくりな体形、スーツ姿であるのにどこかヤボったい。
「平澤先生、一緒に来てください」
私に向かって若干強制染みた口調で言う男。
クイと口端を歪に曲げた、笑みのつもりらしいその表情が何とも薄気味悪い。
「あなた誰ですか?
どうして私の名前を?」
きつ目の口調で問う、当然だ。
多分、ハインリーケさんがこの男に、私を連れて来るよう依頼したのだ。
それは容易に想像できたけれど、名乗ることもせず、いきなり要求だけを押し付けて来る不躾な態度が、酷く不快だった。



