「彼ね、『赤根貿易』社長の御曹司なのよ」
「『赤根貿易』ですか……」
会社名なんか言われてもピンと来ない。
だって日本の有名企業全て知っているわけではないもの。
経済とかそういうの、全然興味ないし。
「何、その薄い反応?
まさか、知らないの?」
「知りませんけど」
キッパリ答えれば、主任は目を伏せ深々と溜息をついた。
「赤根貿易って言ったら、金管楽器を中心に輸入販売してる大手貿易会社よ。
音楽に携わる者なら知ってて当たり前なのに……」
だから私は落ちこぼれなんだってば! と。
口にできない自分の理性が恨めしい。
「さらに、奥様は赤根ハインリーケ。
ハインリーケ=ダフネルと言えばわかるかしら?」
言って主任は、何故か得意気に片口角をクイと上げる。



