何故私なんかが選ばれたのか、さっぱり見当もつかない。
しかも……
「赤根くんがどれくらい弾けるか知りたいから、ちょっと適当に弾いてみて」
と、軽い気持ちでお願いしたのだけれど、なんと彼はショパンの難曲『スケルツォ』をいとも易々と、しかも華麗にダイナミックに、その10本の細く美しい指で奏でたのである。
「スケルツォ軽々弾きこなしたんですよ。
そんな子に、私なんかが一体何を教えられるって言うんですか?」
ピアノ科の主任に即刻抗議した。
「仕方ないじゃない、本人が希望してんだから。
エチュードやり直したいって言ってるから、適当に付き合ってあげればいんじゃない?」
彼女は、何でもないことのように涼しげに言い放ち、年齢に伴って蓄積されたと思われる豊満な肉体を揺らしながら笑った。



