「全部よ! 全部が無理! もう出来ない、ここへ来るのもレッスンも。 赤根くんが無理、赤根くんの全部が無理!」 バカの一つ覚えみたいに『無理』を連呼して、すかさず自分の鞄を引っ掴んで部屋を飛び出した。 赤根くんが追って来たらどうしようって。 そんな不安がどこかにあったけれど、とにかく無我夢中で走った。 結局、赤根くんは追って来なかった。 でも最後に目にした赤根くんの、死人のような青ざめた顔が脳裏にベッタリ貼り付いて。 何故だか胸が痛んで苦しかった。