「……。」
九ヶ月待った。
一ヶ月前にこうなることを仄めかし、心の準備期間だって与えた。
正に彼氏としては万全な体制だったはずだ。
急速にせがんだり、身勝手にがっついたりなんかしてない。
ただ、初心者お姫様を労り甘やかし良き王子様らしく寝かせただけなんだ。
それを、こんな、中途半端に壊されちゃあ示しがつかない。
顔が見えないくらい枕に埋めて、田上さんは勝手にかくれんぼしてしまう。
艶やかな背中に長い髪が一束踊る、凄く綺麗だ。
でも、こんな夜の密室で恋人だけに独占され、不本意に跨がられる様子よりも、
お腹が減った真昼間、運動場にいる同級生男子の大半に眺められるのを自覚しつつ、
体育怠いと愚痴り、笑いながら友達と無気力サッカーをする姿の方が美しく、
要するに、皆に共有されている田上さんこそ、今は確実に価値があるはずなんだ。
そう、今はまだ俺が田上さんを占拠するタイミングじゃないらしい。
「、……田上さん」
名前を呼ばれたら、目を見て返事をするのが常識なのに、鼻を啜るのはおかしいじゃないか。
反省もそこそこ、なんだか腹が立ってきた。最高にムカムカしてきた。
だってそうだろう。あんまりだ。
新人類ゆとり代表で逆ギレするなら、
俺だって普通に男なんだ、ただの高校二年生なんだと、
幼く開き直ってしまう。



