星空刺繍


口の中に残ったグロスはキスの余韻に浸れる甘さを秘めているのに、

どういう訳か、今日は苦い味で不愉快だ。


女の子特有の白い肌は大胆に晒されるより、中途半端に覗く方が趣が増すのだと初めて知った。

綺麗に曲がったままの背骨の線を定まらなくさせる自信ならあるのに、

今はそれを教えてあげる場面ではないと察しできる己の判断能力が憎い。


自分がどれだけ『どうぞ襲いなさい』的な苛酷な状況をこちらに演出しているか、

田上さんは馬鹿だから、ちっとも考えていないんだ。


それに、『付き合ってください』『こちらこそ』の契約を交わしたなら、

相手を拒むのは違反だというルールを、田上さんってばアホなせいですっかり忘れている。


どんなに理性を武器にしたって、まだまだお子ちゃまなせいで暴走スイッチが入りそうになる分、

彼女の心情を構わず、力任せに俺の方へ向けたい癖に、

結局、屁理屈ばかりで男を出せないままの自分っていう性格が情けなくなる。


でも、そんな不満は別にいい。
ただ、俺に許可なく勝手に涙を流すのは禁止だ。

それから、名前を呼ばれたのに彼氏をシカトして一人メソメソするのも厳禁だ。


田上さんが悲しいなら、俺が悲しいだろう。

仮にも彼氏なんかが原因で今悩んでいるなら、笑うまで一生許してやらない。