『好きだ』と告白したなら『好きだよ』と、
『服を脱がす』と宣言したなら『大事にしてね』と、
クリスマスぐらいには純愛チックな甘い台詞を、吐息混じりに女の子らしく訴えてほしかった。
無口な理由は緊張してるせいだと分かってるけど、
俺のみが感情を実況するばかりで、微妙に恥ずかしいし損してるじゃないか。
どうやって好きだと吐かせてやろうかと企みつつ、自ら『すき』と、ストレートに想いを唇に乗せ、
背中に添えているだけだった右手を、勿体振って首筋まで撫で上げようと動かしかけた時だ。
ようやく放たれた田上さんの音階をした歌は、妄想とかけ離れていた。
『――……、』
恐らく、彼女は『待って』と言った。
計算高い彼氏が膝で腰を挟んでいたせいで、逃げ切れなかったのでしょう。
見つめ合いを拒むためにくるりとウエストを捻り、こちらと顔が合わないようにし、
ご丁寧に真っ白な背中に一本線、
ワンピースの色とは似合わない爽やかな水色の下着を堂々披露してくれている。
一秒足らずの間に、たくさんのことを考えていた。
ベッドの上に先に乗ったのは俺で、手を繋いで向かい合って、もう一回キスをして、
それって結構、自分自身でもロマンチック過ぎて変な感じがした。
本当はお姫様抱っこをしてみたかったりしたんだけど、そんな男前行動は余裕がなきゃ無理だ。
自然なエスコートなんかできない。
などと、どんなに経緯を振り返ったところで、『待って』と拒まれた悲劇的事実は変わらないんじゃないのか?



