自分で借りるなら一週間で六万円もする部屋は、入ってすぐがお風呂やらトイレやらの水回りで、
ドアを開けると右手にカウンターキッチンがあり、しっかりテレビを見てくつろげるリビングを確保した後ろにベッドが置かれ、
小金持ちの社会人が暮らすには広めで綺麗な空間だった。
備え付けの家具は二十代後半の流行りを意識したのか、木々の温もりを推したナチュラルフレンチ風で、
旦那さんが奥さんの趣味に合わせた新婚さんみたいな淡さが漂っているため、
借り物の無機質なマニュアル感がなくて良かった。
「家みたい、家ー。友達ん家に着たみたい」
「分かる、家みたい。な。誰か住んでそう、お部屋探訪」
本当に二人が同棲を始めるには持ってこいのイメージで、家庭的な空気が俺はアタリだと思った。
とりあえず買ったものを田上さんが冷蔵庫へ詰め込んでいる間に、
昨日雅が用意しておいたという包丁やらボールやらが入っているかを確認した。
まだ何もしていないのに、まだ二人ともコートを着たままなのに、
凄くドキドキして中学生より馬鹿馬鹿しく俺は死ねそうだった。
今更になって言い訳臭いけど、別にクリスマスだからと絶対田上さんを押し倒すつもりはなく、
単純に誰にも邪魔されない時間を過ごしてみたいなと、一ヶ月以上前から無邪気に考えていただけだ。
ただ彼氏って大変で、がっつきたい衝動と引かれたくない恐怖、
愛への期待と今の関係が崩れる切なさ、たくさんの矛盾を操り心を調整しなきゃならないんだ。



