木々を揺らす風は、クリスマスを待つ町並みに浸透していく。
挨拶がわりのクラクションが伸びる駅前を少し逸れた平和な住宅街で、
歩いて十数分、不況に逆らうイルミネーション御殿を二、三件見た。
古い民家の手摺りみたいな色の外観は、スタイリッシュと言う名の簡素な造りで、
普通の賃貸マンションを、ホテルシステムにしているのだと知る。
「……多分、ここ?、かな」
「あ!、え、凄い、普通にマンションじゃん」
ラブホテルは露骨で俺の価値観だと無理だし、彼女のキャパシティーだと不可能だし、
だからってビジネスホテルは味気ないし、あいにく洒落たホテルは自分のリサーチ不足で生活圏だと見つからなくて、
友達の雅に相談し、落ち着いたのがウィークリーマンションだ。
自分の家だと弟が居るし、田上さんの家だと親が帰ってくるしで、俺一人なら、クリスマスに起こすチャンスを諦めていたと思う。
そう、ここを用意したのは俺ではなく、同じクラスの雅だった。
一般的なホテルならネットで楽々予約できるけど、個人的にホテルという響きに彼女は抵抗がありそうで俺が嫌で、
ウィークリーマンションというプロジェクトか研修かで出張目的の社会人が利用しそうなネーミングに惹かれたものの、
手続きがややこしくて、友達のアイディアは参考にするが、流そうとしたら、
雅のお姉ちゃんの旦那は仕事で稼いでいるお金持ち特有の人脈効果で、無関係な俺に貸してもらえることとなった。
「コンロIHかなー? ガスかなぁ?」
親友のメリットである好意に図々しく甘えてみた結果、今、俺たち二人は部屋のカードを手にしている。
これは中学生が憧れる純愛へのキーだ。



