星空刺繍


ブレーキのかけかた、信号待ちのタイミング、子供の頃より敏感になる癖は謎だ。


消臭スプレーか芳香剤か加齢臭か前の乗客の残り香か、

原因不明のこもった空気、暖房とコラボした車内はそこそこ最悪だ。


防犯が叫ばれている昨今、先程の田上さん主演の三流ドラマがドライブレコーダーに記録されたのかと思えばまあまあ最低だ。



透明の板を隔てた向こうに、「――駅の東口まで。お願いします」と頼んで以降、

気まずくて無言だった。



いや、正確に言うと違う。

そりゃあタクシー運転手さんはプロなんだから、一応アクセルを踏むと同時に当たり障りない会話を繰り広げられた。


『クリスマス。デートでしたか? 可愛い彼女さんは高校生かな、窓を開けるなんてウチも娘が居るからつい余計な真似を。おじさんはこんな日でも仕事ですよ』


社交辞令ノリで乗客はお喋りをするべきなのに、恥ずかしくて無理で駄目だった。

楽しいデートでしたとか彼女も自分も高校二年生ですとか、

娘さんはおいくつですかとかお勤めお疲れ様ですとか、

窓を開けるから焦りましたとか娘さんは彼氏が居ますかとか、

なんだって広げようがあったのに、『あははは』って笑うのみ、

そっからはずっと無言で、全く俺としたことがらしくない。


キャラを見失うぐらい破壊力があったんだ。

素直にクリスマスイヴを喜ぶ田上さんに俺の脳みそが故障してしまったんだ。


あんな笑顔に騙されない。
赤っ恥をかかされた上に隣市まで二人きりでドライブさせられるとか嫌がらせだ。

咳払いしか武器がないとか気まずいじゃないか。