「っふ、てか息、くるし、走るの速、あはは、ダッシュ、隊長」
ホッペに淡い桃色エアブラシをかけた田上さんは、呼吸を落ち着かせようと手の甲を口元へ添えてるんだけど、
こちらへ向いた不規則に折れた指の感じがしなやかに女らしく、変に夜っぽさを助長させ困る。
「、しんど、万引きGメン尊敬するし、はは」
ふにゃりと素で笑うのは狡い。
ああ、もう、一番危ない人間は恋人の俺だって基本的な発想はないのか?
いざという時に泣いた田上さんは、いよいよという時に紐を引っ張れない。
悪者に襲われる場合、一般的な女の子は恐怖と驚きでかたまって非力で、
敵が現れた場合、戦う主人公がアイテムを掲げ決め台詞を唱え変身する段取りを踏むように、
警報機を武器に助けてと叫び護身する流れをとれない。
なんか防犯ブザーは意味ないと思った。
ただ、危険に備える意識だけは持っておいてもらいたい。
まあタフな俺は撃退されないけど、苦しい新聞記事とは違い一回も使わないまま平和に暮らしてほしいとは願う。
「誰かさんが走るから疲れた、ね、心臓痛いってば」
手渡された安心小物を躊躇なく再び鞄へ戻すバカに、
明らかに俺は言葉で侮辱されてるんだけど、一秒でも長く一緒に居られる今を喜ぶ自分が幸せ者だと感心した。



