『お前だけは高校卒業するまで誰とも付き合うなよ』って、
女子高生へ妄想を押し付けていたのは、
清純派の存在が勉学に励む男子高生に必要不可欠な支えになるせいだと弁解しよう。
喋ったこともないどころか自分の名前さえ知られていないあの頃の俺が、
あの田上結衣をまさかクリスマスに押し倒せる関係に昇格しているとか知ったら、
悪い冗談だと失神するだろう。
それぐらい誰かと付き合うって青春の歴史を変える不思議な出来事なんだって改めるなら、
遊びとかとりあえず繋ぎとか、浮気とか処理とか、そういう発想が消滅し、
俺たち高校生はスマート勇者を名乗れるんだけど、
まあ昔話もほどほどに。
「いやいやタクシー代とか要らねって。俺が。勝手に。降りただけで。お前関係ないじゃん。それとも遠慮できるアタシアピールか?」と、
どうでもいいお喋りをしつつ、
恋人が落とした防犯ブザーを拾うべく腰を曲げ、
軽く一息ついた後、
「てか、まあ、そんな無駄金払うんならさ、お化粧品買って自分磨きでもしてくださいな。少しは美人な姉に近づけよ、ブス姫君」と、続け、
握った違和感に内心苦笑し、向き合う。
「ありがと」
その感謝は落とし物を拾ってくれたことに対してのみ受け取ろう。
艶消し加工を施された指輪から煌めく指輪へと、
お姫様をお護りする騎士が定位置についてった。



