時刻は八時、年末らしい強い風が恋人たちの輪郭を冷やしていく。
マイペースに流れる雲に月が濁され辺りは暗くなる。
今夜甘い夢が見られるよう、せっかく優しいおまじないを薬指へかけてあげたのに、
人の気も知らないで鬼ごっこしてくるとか、
正真正銘、相手の思考を尊重する対人スキルに欠けたおバカさんなんじゃないかと疑いたくなる。
イケメンっぽい発言をするも照れ臭くなり彼氏は急速に逃げたいんですよって、誰かこいつに教えてやってくれないかな。
ひとりにしてあげるって配慮も、恋愛中には必要なんだけど、
純愛に甘えただけなヒステリック女の『なんで分かってくれないの?』的に、
いちいち自分の感情ばっか押し通すのはワガママだし、
初恋パニックの田上さんが男心を理解するなんてかなり無理な話だし、
まあ、今回は俺が折れて、追いかけられるなら潔く止まってあげようか。
「っちょ、こん、ど、くん、タ、……ならタクシー代、っ出す! 私払う、」
お財布を出そうとバックを漁ったらしい。
防犯ブザーを落とすアホは誰だ。
カチャンと効果音が小さく響いた。
そして、田上さんの乱れた息が愛情の量で、新しいピアスが飾られた耳は思春期が彩る。



