星空刺繍


恋愛漬けの俺を、世の大半は愚かだと引くだろう。

だって、ゆっくりドアへと進む女子高生の手を掴み、彼女を追い越しホームへと彼氏が先に飛び出してしまっていたんだ。


そんな訳で、帰る予定の電車は先に明日へと向かってって、

今日に残ったのは独り言が趣味の男子高生だったとか面白くなさすぎる。

帰り際は速やかに去るのがスマートな風潮なのに、ダラダラ粘れば引き際が分からなくなる。


「……。」

こんな日だからだろうか、利用客は少なく、

二十秒もしない間に黄色い線の内側には、俺と田上さんのふたりきりだった。


リサイクルを謡うごみ箱や高いのか安いのか判断しかねる蟹企画のツアーポスター、

ローマ字が和む駅名看板や昇降の区別が曖昧な階段、

ここは恋人の地元なので、彼女の暮らしに馴染む当たり前の場所、


そう、もう車内でバイバイの挨拶をしたのに、俺としたことが車外でつなぎ止めてしまっている謎は、

初恋患者特有の痛い症状が原因でしかない。


どうして好きな人ができると一秒が足りなくて一秒も我慢できないんだろう。

純愛王子様を真似て時計の針を止めて夢の国にさらいたいけど、

今のところ門限を破る正当性は認められず、ただの拉致監禁罪だ。