景色の輪郭が把握できるスピードになり、吊り革を持つ力も弱めかけた頃、
右手に英会話教室のフラッグが見えたら、それはお別れの合図で、
「じゃあ、真面目に冬休みの宿題しなさい」と、
もうすぐ彼女の地元、降りる駅になり手を振る。
「うん!」
ヒーローショーでお目当ての戦士に会えたばりの笑顔は可愛くて、
このまま電車が止まればいいのにと思うなんて、危ないなと自分が不安になる。
「バイバイ近藤くん」
「おやすみバイバイ田上さん」
名字で呼び合う微妙な距離感、大好きな女の子は扉の奥へと足を進める。
細い足首、十二月二十四日色のコーディネート、しっとりとまとまりが良い髪、
往生際が悪いと自覚するも、やっぱり永遠に離れたくない。
今すぐ抱きしめ好きだと伝えたい。
終電も気にしない、朝帰りもない、親への言い訳も考えない、そんな清い交際を裏切れるのは誰?
近藤洋平は高校二年生で男子で絶賛青春熱愛中、
ロマンチストになれるクリスマスイヴは、一年にたった一度しかないし、
人生で今日は一回しかない。
見送るのと見計らうのは違う。
だって、バイバイは愛を二回繰り返すのと同じ唇の動きだから――



