星空刺繍


駅前だけど通行人がいるけど、痛いけど恥ずかしいけど、純愛の魔法にかかれば二人、

クリスマスツリーの下で大々的にキスをしようか。


今日は十二月二十四日。
リアルはラブストーリーの定番が裏切られるもんだ。

伏せたまつ毛をピッと羽ばたかせ、恋人は言った。


「市井ってランドでっしょ、クリスマスにとか彼女いいなぁー普通に幸せだろーね、うらやま」

コップの炭酸水をストローでプクプクするリズムで笑う田上さんは、

口づけムードを押しのけ、ことごとくロマンスの花を踏み付けていく。


もうあれだ。
俺達カップルがイマイチ親密になれないのは、

きっと彼女が女の子らしさをセールスポイントにしないせいだ。


けれど、そのガサツさが個性でその幼さが演技で、その鈍感さが大人力でその全てがスキの根底なら、

同じく、美しい銀世界で雪だるまを作り童心に浸るんじゃなく、本気の雪合戦を仕掛ける癖に乗ろうか。


「はー? なんだそれ近藤のデートプランは女子高生的にイマイチってゆー遠回しの厭味か?」


ああ、もう認めよう。
俺達がイマイチ親密になれないのは、

きっと彼氏がイケメンらしさをセールスポイントにしないせいだ。


王子様のお喋りにご機嫌を良くし、口に手をあてお上品に笑いを堪えるお姫様の指輪が光って、

ウエディングベルの音が聞こえたような気がした。