寒くて良かった。
でなければ、ホッペの赤みで今日という特別なイベントに期待と緊張が田上さんにバレる格好悪さに、
俺はナチュラルに死んでいるはずだ。
付き合って九ヶ月、キスの行為に慣れたところで、彼女の唇に触れる度に心は毎回喜ぶし緊張するしときめく訳で、
そんな彼氏だから、数時間後の新展開――女の子ばっかりが不安で切なくて怖くなるのは間違いで、
男の子だって普通に心配でもどかしくて怯えているんだけど、
そういうのは王子様風キザに決まらないため、可能な限り隠しておきたい。
バス乗り場の雨宿り的な小屋に反射して映るのは、すらりとした彼氏と華奢な彼女の高校生カップルで、
自分たちが通りすがりの他人にどう見られているのか気になる。
そう、クリスマスだから、俺はオシャレに気を配ったつもりだ。
黒と思いきやよく見れば細かいチェックが可愛い細身なチノパンを、無難な黒のブーツにもたつかせるよう入れて、
黒いボタンがアクセントとなるグレーのPコートは、羽織るだけで品が良い印象に上がるからテッパンで、
中は恐らく彼女が着ていると思われる色とお揃いで、紅色の細身なセーターに深緑のステッチが小意気な黒のシャツを合わせた。
つまり、コートを脱げば微笑ましくクリスマスカラーを意識しているのが田上さんに披露できると同時に、
どれだけエスコートしたいかが伝わるはずだ。
詳しくは、ホワイトデーの馴れ初めを知れば容易だろう。



