俺が住んでる地域は滅多にお目にかかれないんだけど、
メルヘン伝説によると天使の国から舞い落ちる雪って、手で触れるやいなや儚く消えてしまうらしい。
なんでも、空を見上げ眺めるからこそ美しさを増すのだとか。
そんなキュートな比喩を少年少女に置き換えれば簡単、
まったくの他人が恋人となった幸運は、程よい距離感を保つことで恋愛の基礎になるらしい。
お人形さんを連想させるまつ毛、ふんわりとした瞳、恋心を射る弓は一直線。
付き合って九ヶ月、田上さんを改めて可愛いと俺はクリスマスイヴに感動してみる。
夢見る高校生活の始まり、体育館での入学式が終わって各教室へと退場する際、
華奢なスタイルに甘い顔立ち、新たな幕開けに気合いを入れて巻いたであろう髪をふんわりと揺らし歩く女子高生は雰囲気が華やかで、
同い年が並ぶ中で明らかに異端、男子高生は意識していたんだ。
一年と八ヶ月前は名前さえ知らなかった他人が、
今や姿を見なくとも想うだけで少し微笑む存在となれた変化を思えば、
無意識にニヤついてしまう。
俺のみぞ知る柔らかな唇が僅かに開き、ハムスターみたいな二枚が幼児っぽい歯が覗いた。
二重のラインが薄まったアイホールに乗っかるキラキラパウダーが粉雪のように輝いたのを確認できたなら、
たぶん彼氏にしか察知できない口づけの合図。



