俺を想ってしか笑えなくなればいいのに。
田上さんが笑う時は心に住む俺がきっかけじゃなきゃ嫌だし、
とびきり可愛い笑顔を作るのが、他の奴だなんて許せない。
といったように止まらない黒々しい気持ちが切ないと定評ある恋愛なのだとしたら、
こんなにも視野が狭い物語をよみきかせる程、恥ずかしいことはないだろう。
よって、俺は笑みを絶やさず澄ました面で恋人の話をジョークを交えて膨らませ聞いてやるんだ。
市井は優しいとか市井は気が利くとか、市井は友達想いだとか市井はスマートだとか、
雅を褒めるのに一分費やす内に、
ツリー観賞を楽しんでいた他人カップルが腕を組んでパチモンの星空へと消えてった。
その甘美な背を羨ましいと思わないのは、もっと幸せなことが耳で輝いているせいだ。
「市井ってイケメンに頼らず結構いい人、立派ですね」
相変わらず小学生リズムで喋る田上さんは、
恋愛に奥手な奴が憧れる乙女っぽさが欠落してて、
『市井くんって凄くいい人だね、偉いね』と、小首を傾げて言えたなら、
おっとりしたルックスと調和し、最強な妄想ガールフレンドにぴったりだからこそ、
シュガーボイスでガサツな物言いのギャップは非常に勿体ないんだろうが、
捻くれた俺はその強がりらしさに痺れ落ち着く。
まあ、ここは、『カレシの親友の良さを汲み取れるアタシってば大人でしょアピール』だとすり替えておこうか。



