舞台上もリアルも、どちらも場面は展開する。
「んーと、田上さん」
喩えるなら、近藤君の声はバーのムーディーな間接照明とも違う独特な橙色をした純喫茶の空気のような重厚さがあり、
なんとなく哀愁が漂う独特な年輪を感じさせるその音色は、
私の皮膚に染み込んでしまう。
高級リゾートホテルのスイートルームに到着するなり、駆け足で絶景の海を眺める浮ついた心で窓辺に座り、
星空を見上げている今、
やっぱり彼氏の唇は彼女に魔法をかけるシナリオだ。
「お前ちょ、これ読めるか?」
気持ち私の方へ傾いた近藤君が、ドとミの指で繊細につまんでる癖に、
おおざっぱな笑みで得意げにワッカを近付けてくる。
なんだか夏休みのラジオ体操カードのハンコを見せびらかしてくる子供にそっくりだと、
無邪気な萌えポイントを味わうゆとりもなく、
「は? え、?」と、全力で挙動不審になるも、
指示通り、指輪の内側にこめられたメッセージを確認するべく、
好きな人の右手にある隠れアイテムに注目した。
まず、カップルの定番二人のイニシャルが彫られていると理解し、
同様にベタな付き合い記念日が書かれていると把握し、
そしてデステニーとかフォーエバーとかラブとかネセサリーとかがありがちな英単語の枠には、
誰にも意図を解読できない呪文が刻印されていると気づいた瞬間、
胸の奥を中心にし、円状に恋心が弾けたのが分かった。
心臓が暴れて脈が壊れて身体が燃えて顔が熱くて困る。
改めて言おう。
どうやら田上結衣は近藤洋平を愛してるらしい。



