星空刺繍


私たちはお互い相手が思う理想像に従い、喋って笑って行動する。

だから、クラスメートたちの恋愛みたいに、

夜中に電話で深い話をしたり、突然恋人を星空の下に誘い出し本音で語ったりしない近藤君と私は、

皆に比べて、お互いのほとんどを知らないんだろう。


でも、虚像に近づけるように演じるということは、相手の幻想の構造が分かっているからで、

そうなると、実は凄く意思疎通がはかれてるんじゃないかな。


でも、そんな考えを誰かに共有してもらいたいという発想が私にはないせいで、

そんな女の子したキャラクターや女の子したシチュエーションに微塵も憧れない。



結局、彼氏は知らないんだ。

クリスマスに向けて彼女が一生懸命期待を裏切る努力をしていた日々を。


明らかに一見で気まずいけど、エステのお試し二千円コースをクーポン券片手に行ったし、

いくら同性とはいえ凝視されても自信がないのに、

むだ毛や吹き出物を愛美にお願いして背中とか腿の裏とか脇とかデコルテとかチェックしてもらったし、

正に今日、本当に半日前。


学校から帰って速攻お風呂に入って高い高いボディソープでピカピカに磨いたし、

ボディクリームだってお姉ちゃんにお願いして高いやつを拝借した。


それらがショボイ私なりの精一杯の愛情だと、本人に伝わらないなら幸いだ。


そう、彼氏に届かなくていい。ストレートな歌詞みたくご丁寧に感情を直々届けなくていい。

どうせ私の持つ偉大なる三流片思いパワーなら、余りに余って自然に溢れてしまっているせいで、

近藤君は嫌でも嗅いでしまってて、もう完全に粗品な純愛で毒されているのだし、

随分と前から手間は省かれている。