――ガチャ






「あっ甲田先生!!いらっしゃったんですねっ。」





「まぁ…今日休みですから。」





ドアを開けた瞬間に聞こえた甲高い声と、キツい香水の香り。






俺の不機嫌な顔を見ても、秋山先生は動じず笑顔を向けてくる。






どんな時でも会いたくないと思っていたが、今日は、今日だけは本当に会いたくなかった。






もし家に一人だったら、俺は間違いなく部屋から出なかった。






秋山先生と会うことを拒み、辛さから逃げていたに違いない。







だから、今日会おうと思えたのは伊緒のおかげ。





俺の様子に不安になりながらも、しっかり受け止めようとしてくれてる。






そんな伊緒の強さが伝わってきたから俺も頑張ろうと思えたんだ。







伊緒が逃げないなら、俺も逃げない。






どれだけ辛くても、しっかりと向き合うよ。







「秋山先生、何しに来たんですか?」







ドアを持つ手を離す事なく、しきりギリギリの所に立ちながら秋山先生の顔を見る。






絶対に家の中には入れさせないようにと、出来るだけの壁を作った。








そんな態度で俺の考えを全て理解したのか、秋山先生の顔からは笑顔が消えた。









「…今日がなんの日か、覚えてますよね?」







笑顔の裏に隠れていた、本当の秋山先生が現れる。







何を考えているのか解らない冷たい目が、俺の身体を突き刺してくる。







「…ふふっ、その顔は覚えているみたいですね。」







「――っっ」








「良かったぁ。忘れられていたらどうしようかと思ってたんですよ?




……私と幸輔君の、赤ちゃんの命日を。」