「伊緒、本当に病院いかなくていいの?」





「うん、大丈夫。それよりごめんねお母さん。迎えにきてもらって…。」





「何言ってんの、これくらい。」





「へへ…ありがとう。」






あの大波乱の100m走終了後、保健室で先生に手当をしてもらった私は、閉会式には出ずお母さんの車で帰宅している。





先生は送るって言ってくれたけど、なんだか今日は一緒に居てはいけない気がして私から断ってしまった。






皆にあれだけ注目されて、ましてやお姫様抱っこまで見られてるんだから…。





きっとこれ以上怪しまれることをしたら危険に違いない。






「ねぇ伊緒、あの先生なんていう方なの?」





「え?」





あの先生って…もしかして甲田先生のこと?





「ほらっ、あんたを手当てしてくれた先生!!私に挨拶しにきてくれたでしょ?」





「あ、あぁ…。甲田先生だよ。」






「そう、甲田先生っていうの…とても優しそうな先生ね。」








そう言ってハンドルを右へときりながら、お母さんは私に笑いかける。






その姿を見ていると、私の胸がシートベルトの下でドキドキと動き出したのを感じた。






目はお母さんの顔から離せなくなっていて、まばたきすら忘れてしまいそうになる。





なんだろう、この不思議な気持ち…。