時間がない……
 ケイタイの液晶画面にはまぬけな顔をした猫が画面いっぱいでしゃばっていた。問題は猫ではない。時計だ。腕時計が三日前に壊れてしまってからあまり好きではないがこのケイタイの画面を時計代わりに使っている。もちろん圏外で誰かと連絡を取ることはできない。
「……合ってるんだろうな?」
 思わずケイタイの画面に聞いてしまう。この時計が合っているかどうか確かめる術はもうない。衛星も電波ももうないのだからこいつが動いていることを褒めてやるべきだろうか。動いていると言ってもこの時計はただの気休め程度にしかならないかもしれない。
 ケイタイの画面から顔を上げ、瓦礫だらけの道をただまっすぐ歩いていく覚悟をした。