「やっぱり、千葉くんだよね?」
 女に人は久しぶりねと続けたけど、僕はこの人が誰なのかさっぱりわからない。僕は曖昧にうなずくことしかできない。近くで見ると、女の人は今まで出会った女の人の中で一番綺麗だった。でも、こんな綺麗な女の人と知り合いになった覚えはないぞ。多分。
 僕の隣に座ったこの女の人は誰なんだ?
 でも、僕の名前を知っているということは知り合いなんだろうな……
「あの……」
「何?」
「すいません、どなたでしたっけ?」
 僕が勇気を出してそう聞くと、女の人は可笑しそうに笑った。僕は適当にやり過ごせばよかったと後悔した。
「やだ、忘れたの? 英語部の小宮だけど」
 英語部の小宮……
「あっ」
「思い出してくれた?」
 思い出した。思い出したくないことと一緒に。
「先輩、すいません……」
「いいのよ。卒業してから会ってないから仕方ないわ」
 先輩はそう言って微笑んだ。