初恋未満

「帰ろうか」
 会話が途切れ、先輩がそう言った。僕は黙って頷いた。
 花壇の淵に座りながらお互いの近況報告と英語部時代の話をしていたら結構時間が過ぎていた。
「また、会ったら話しましょう」
 先輩は笑ってそう言った。
「そうですね。また、どこかで会ったら」
 そう言いながら、僕はもう会うことはないと思っていた。先輩は大好きなこの田舎から出るつもりはないし、僕は大好きになったはずのこの田舎から出て行こうと思っている。
 思い出すのが辛いから、なんてずるいかもしれないけど、ここにいると僕はまだ俊哉は生きているんじゃないかと勘違いしてしまう。
 友達の〝死〟を、まだ完全に受け入れられない。
 笑って思い出を語れるようになるにはまだ時間がかかりそうだ。
 そういえば、俊哉が死んでから、僕は先輩のことも忘れていた。あんなに好きだったのに。
 もしかしたら、僕は俊哉に対抗しただけかもしれない。もう勝負はついていたというのに。
 俊哉がいたからあのときの気持ちを恋だと錯覚していたのかもしれない。

 先輩の背中を見つめながら僕はそう思った。