初恋未満

「田舎って人が優しいと思わない?」
 先輩がそう聞いてきたのは英語部に入部してすぐの頃だった。
「そうですか?」
 僕はこの田舎にそんなに興味がなかった。特別に文句もなければ気に入っているところもなかった。
「じゃあさ、千葉くんにはないの?」
「何がですか?」
「Favorite placeだよ」
「え?」
「英語部ならわかるでしょ?」
 先輩はからかうように笑った。
「えっと、好きな場所?」
「そう。香川くんより英語出来るね」
 先輩は俊哉が「How are you?」を「Who are you?」と聞き間違えて自信満々に名乗ったことを教えてくれた。俊哉の中学のときの英語の成績がずっと「2」だったことを思い出したけど、僕は先輩には内緒にしておこうと思った。
「それで、ないの? 好きな場所」
「うーん……そうですね」
「じゃあさ、今からでも地元好きになってよ」
 せっかく生まれ育った場所なんだからと先輩は笑った。僕はその日からこの田舎のいいところを探すようになった。
 土の栄養がいいらしいとか、道が広いとか、そんなことを先輩に報告する度に僕は地元を好きになった。それと同時に先輩のことも好きになっていった。
 俊哉と一緒にどっちが多くこの田舎のいいところを見つけられるかを競ったりもした。
 気付けば、この田舎を大好きだと思うようになっていた。