それから夏休み前の席替えで、僕は春山の隣の席になった。春山はちょっとまぬけな感じだが、よく笑う明るい子だった。僕によく話しかけてくれる。
 この時期になると同じ高校で僕のことを知らない人はいないんじゃないかと言うぐらい変な噂が校内に蔓延っていた。僕に積極的に話しかけようとするのは先生ぐらいだった。君なら全国模試一位も狙えるだとか、東大へ行ったらどうだとか、飛び級を受けてみたらどうだとか、くだらない話を飽きずに毎日してきた。先生以外で僕に毎日話しかけてくれるのは春山ぐらいしかいなかった。
 これまでろくに友達もいなかったから僕は面白い話もできないけど、飽きずに春山は僕の話を笑顔で聞いていた。内容は昨日のテレビニュースの事件についての感想だったり、今日の天気についてだったり、くだらないものだった。なのに、話していて楽しかった。春山は時々突拍子のないことを言い出して話を聞くのもすごく楽しかった。次に何の話が出てくるのか予想しても当たったことはない。
 春山の笑顔を見ながら、こんな風に笑えるようになりたいと僕はこっそり彼女に憧れた。


 クラスの自己紹介では言わなかったけど、僕は将来春山みたいに笑って毎日過ごせる人になりたかった。