高校入学してから初めての授業はホームルームだった。内容は自己紹介だった。一人ずつ名前と将来の夢とよろしく以外で何か一言言うルールが担任から出された。それでも大体みんな一言は『よろしくお願いします。』だった。
「時永哲也です。将来はサラリーマンになりたいです。音楽を聴くのが好きです。よろしくお願いします。」
 僕がそう言って席に着いた後、いきなりクラス内は騒がしくなった。もちろん、いい意味なんかではなく、悪い意味でだ。
 中学生の頃、僕の頭脳に嫉妬したテストの点が悪い奴らが良くない噂を流していたお蔭で僕はここ一帯で有名人になっていた。特別扱いされたくないという理由で高校は地元の普通科を選んだ。地方から勉強だけがとりえのエリート学校から特別入学で入らないかという誘いが何件かあったが全部断った。
 しかし、その考えは間違っていたのかもしれない。地元と言うことで半数以上は噂とかで僕のことを知っているみたいだった。偏差値が高い学校ではない。だから馬鹿な奴をさらに馬鹿にするためにこの学校に来たのかと厭味を言われたりもした。カンニングで満点取っているんだから本当の実力は凡人以下だとか、超能力者で透視できる変人だとか、言いがかりもつけてくるやつはいっぱいいた。中にはテストの点が良いことと関係ない言いがかりもつけられたりした。まだ入学式とホームルームだけなのにこの扱いはかなり特別と言えるだろう。
 高校も中学と変わらずに変な噂が僕をつきまとうことになりそうなことはこの空気から簡単に予測できた。ザワザワした空気の中で自己紹介は続いた。僕はクラスメイトたちの陰口と自己紹介を聞き流していた。
 ただ一人を除いて。
「春山優です。えっと、将来の夢は歌い人です。歌手ではないので間違えないで下さい。よろしくお願いします」
 聞き流そうにも、僕の斜め後ろの席の女子のその自己紹介だけは強く印象に残った。よく通る声をしていた。それに僕が知らない単語を彼女は口にした。僕はその日、歌い人が何なのか考えた。