堂本博士が今度学会に発表する研究に関して僕に意見を求めた。僕はつい、その研究はまだ完璧ではないから発表すべきではないと言ってしまった。正しい答えを実験もせず言い当ててしまったのだった。堂本博士はこれまで僕に見せたことのない顔で「父親とどこまでも一緒か……気持ち悪い……この化け物が……」と僕に言い捨てた。とても憎しみがこもった声だった。それから肩に激痛が走った。続けて頭にも鈍い痛みがあった。そこから意識を失った。
 きちんとした知能を計ったことはなかったが、僕は自分でわかっていた。今の学者たちでは僕のことを計りきれないことを。そのことが堂本博士の負担になっていたことを。
 自分の父親が天才と呼ばれていたことを知ったのは病院のベッドで寝ている時だった。
 父親が堂本博士と仲が良かったこと。事故死ではなく父親が堂本博士に殺されたこと。堂本博士がおかしくなっていたこと。警察の人が教えてくれたのはそれだけだった。あれだけ博士のことが好きだったのに、不思議と涙は出なかった。




 九歳のあの日から僕は世界で独りぼっちになった。