キミノウタ

「ケータイの電波探しに来たんでしょ?」
「いや、そのためだけにわざわざ来ない……それに、携帯電話持ってないから。」
「ぬっ、またはずれ……」
 そう言ってまた春山は考え込んだ。そして顔を上げると同時に驚いたような表情になった。
「時永君! いつの間に? 何でフェンスの向こう側にいるの!? 危ない、落ちたら死んじゃうよぉっ。」
 春山は慌てながらフェンスに近づいてきた。いつの間にって、もしかして今まで気付いてなかったのか?
「いいんだよ、落ちたいんだ」
「えっ? あっ、なんだ。バンジ―ジャンプかぁ。ビックリしたぁ」
 春山の中で僕のこれからの行為はバンジージャンプと言うことになったらしい。紐なんてどこにもないのにその発想力はすごいと思う。
「あっ」
 春山が驚いた顔をして僕の顔を凝視した。なんだろう? 僕が春山にどうしたか聞こうとした矢先、春山がこう言った。
「時永君、もう一回笑って?」
 春山の言葉がいまいち理解できずに僕は聞いた。
「えっ? 笑ってた?」
「うん。可愛く笑ってた。久しぶりに見た。」
 僕は春山に言われるまで自分が笑ったことなんか気付かなかった。そう言えば、夏休みに入ってから人とこんなに長く会話するのも久しぶりだ。
「そっち、行っていいかな?」
「うん。日陰行こう」
 僕は、死ぬ前にもっと春山と話したいと思った。フェンスを乗り越え春山の後に続いて日陰まで移動した。