柏原は手を離すと居心地悪そうに、一歩後退りをする。


「でもさ、今ここで俺が茉莉果ちゃんと二人きりになりたくても、彼はついてくるの?」


私にしか聞こえないように、耳元で囁かれる秘密の話に柏原は眉をしかめる。

浩輔は、執事になりたいのだろうか? 柏原を気にするなんて、すごく興味があるのね。


「私が『ここで待ちなさい』と言えば来ないわよ?」

「すごいね。執事って主人の命令が絶対なんだね? 茉莉果ちゃんの『ここで待ちなさい』にも鳥肌たっちゃっうな俺」


私の垂れていた髪を、耳にかけながら低い声で囁く浩輔。

鳥肌立つくらいなら彼は立派な執事になれるかもしれないわね。毎日が鳥肌ものだもの。

それにしてもスキンシップが上手ね?

いつの間にか腰に回されていた浩輔の腕が、私を抱き寄せる。

ちょっと低められた声も最高ね。


「でも逆に、『ずっと見ていなさい』ってプレイもありなの?」

浩輔は柏原に挑発的な視線を投げる。

中々柏原を挑発できる男も少ないわ。それだけ浩輔には自信があるのだろう。


「ありよ。執事は主人の命令が絶対よ」


浩輔は、柏原の執事としての力量を計りたいのかもしれない。将来自分が執事になった時の勉強に深い探求心が彼を突き動かすのだろう。


なんて勉強熱心ないい人なの?


ついでにイケメンなんて、非の打ちどころがない男ね。