泣かないって虚勢を張ったのに、簡単に涙がポロポロと溢れてきた。

 その涙を柏原の手が柔らかく拭うと、満足そうにとても優しい表情になる。



「ご理解いただけたようで……男とは所詮この様なものでございます。お忘れなきよう」



 そう言うと柏原は私の腕を解放し、そして私をソファーの背もたれに優しく沈めてくれた。


 床に落ちた白い手袋を拾いあげ、また床に膝をつき忠誠の姿勢をとった。



「ご無礼をお許しください」


 謝るならやらないで欲しいわよ!

 本気で恐かったじゃない!


 ああ、文句を言いけど、緊張と恐怖から喉がカラカラに乾いて何も言えないわ……


 キッと柏原を睨みつけた。


「おや困った。ご機嫌を損ねられてしまいましたね。ですがお嬢様、男と女とは、こういうものです。ナツ様はお優しい方ですが、そのような男性は稀でしょう。茉莉果様どうかご自分を大切になされて下さいませ」


 柏原はサイドボードの飲みかけのカップを持ち上げる。


「もう一度暖かいお飲み物をご用意いたしましょう」




私の執事は、深く頭を下げた。

そして何事もなかったかの様に部屋から出ていくのだ。