柏原はソファーに座る私の横で床に膝をつく。

 そして胸に手を添えて頭を下げた。


「私はお嬢様をお守りしたいだけでございます」


 最敬礼。執事としての忠誠の姿勢。


「騙されないわよ、私はいつまでも籠の中の鳥でいるつもりはないの」


 こうして、この屋敷で柏原に守られてばかりは嫌なのよ。

 何も知らずに、ただチヤホヤされて毎日を過ごすなんて嫌よ。


 イケメンと自由な恋愛がして、自分だけでキラキラとした楽しい時間が過ごせると思ってた。

 冒険をしたのに、自分で考えて動いただけなのに、私の何がいけなかったのか、よくわからない。

 恋愛なんてもっと簡単だと思ってたのに、この胸いっぱいの違和感は一体何なんだろう。



「お嬢様、何もおわかりになっていらっしゃらないので、一つ教えて差し上げましょう。男が女に何を望むかご存知ですか?」


 柏原は私の手からカップを取り上げサイドボードに静かに置く。


 今までの柏原とは少し違う雰囲気が漂い始める。

 いつものサイボーグ執事の枷が外れて、醜く歪む顔が酷く人間らしい。

「わからないわ……」

「ナツ様はとても良い方でしたね。私も安心してお嬢様達を見守っておりました」


「……柏原っ?」



 一瞬、自分に何が起こったのかわからなかった。


 私はソファーに押し倒されて、上から柏原が馬乗りになる……