「お嬢様、身体が冷えてしまいます。さぁ、あたたかい車内へどうぞ」


 ナツの後ろ姿が街の中に消えたので、弾かれたように車内に身を投げ入れる。


 快適な温度の車内は、いつでも空調もきいている。

 さっきまで色んな匂いがごちゃ混ぜの空間にいたから、フゥと大きく深呼吸をすると洗礼されていく。


 自分に染み付いてしまったあの場所の匂いも早く流したいわ。


 なんの素材で出来てるかも分からないような椅子に座っていたから、柔らかい皮のシートに安堵する。


 滑るように走り出す静かな車内に安らぎを感じる。


 目を閉じると、自然と涙がこぼれてくる。



 一粒、また一粒。

 柏原に、気がつかれないように窓の外に視線を移した。



 執事は、ただ前方を見据えて静かな運転をしているだけだ。