「今から、どこに向かうのかしら?」
「貴女の産まれた街ですよ」
私の産まれた街?
そこに行けば、紫音茉莉果じゃない私の痕跡があるのね。
何かが、変わるかしら。
それでも柏原は、一緒にいてくれるわよね。
柏原の手を強く握り締めた。
横目で私を見るとクスリと笑った。
「ねえ、柏原。お父様とお母様は、まだ日本にいらっしゃるかしら?」
麗香からは、『久々の日本公演よ』と聞いたけど……いつまで日本に滞在してるかまでは、わからない。
あの二人は雲みたいに突然いなくなってしまうんだもの。
「お二人のことが心配なのですね?」
「そうよ」
二人は、私のことなんて心配してないかもしれないけど……
柏原は沈黙したままアクセルをゆっくりと踏み込んだ。
緑のトンネルを潜るような険しい山道は、すぐに大きくて舗装された道へとかわる。
緩やかな下り坂を、くねくねと走り抜けていく。
柏原の車は屋敷の車より車高が低くて、唸るようなエンジン音がする。