「────ですから、事件とは全く関係のない事柄でしょう。お嬢様にとって、もうあの事件はどうでもいい事なのですよ。これではっきりお分かりいただけたのではないですか?」


「けれども、あの海の話は何かの暗示なのかもしれない……ご自分の記憶にない過去が呼び起こされそうとしている」



「その記憶はあなた方には全く関係のない物事ですし、お嬢様が恐がっているではないですか」




さっきから、コブタちゃんと柏原は何かを必死に話し合っている。


私はピッタリと執事に抱きつくと、彼の燕尾服越しにコブタちゃんを睨みつけて、うんうん頷いた。





コブタちゃんのせいで恐い夢見ちゃったじゃないのよ!




執事の胸元に顔を埋めると目をギュッとつぶった。

執事が優しく背中をさすってくれる。そして黒いため息を吐いた。



「津田先生、お気持ちはありがたいのですが……人質被害にあった者は、カウンセリングを受ける。そして、何らかの事件でできた心の穴があるならば、それを親身に治療するのが、あなたの仕事でしょう?」


コブタちゃん先生は、何も言わずにでっぷりとしたお腹の上で手を組む。



「そうですね。ただ、あの海の話は先日お嬢様が見ていた海外ドラマのストーリーに酷似しているのですよ」