「お嬢さんは軽い貧血のようです、少し眠れば気分もよくなるでしょう」
お父様とお母様の、安堵したような声が聞こえる。
「ですが、今夜は嵐で海が荒れそうだ……」
心配そうにお父様が私の頭を撫でた。
ギーギーと、木が擦り合わうような不気味な音が聞こえてくる……
記憶の断片がめまぐるしく押し寄せてくる。
「茉莉果ぁー!!!!」
何処から、悲痛な女性の声が聞こえてきた。
「紫音さんの声だわ。茉莉果お嬢様に何かあったのかしら……あなた行ってみましょう!」
お母様が心配そうにしている。
ギーギーと不気味な音が響き……船は酷く揺れていた。
「茉莉果!! 何処にいるのー!?」
「そうだな、行ってみよう……ここで良い子に寝ているんだよ? パパとママは、すぐに戻るから」
パパとママ?
そんな風に、両親を呼んだ記憶なんてない。
「茉莉果!! 茉莉果!!」
この声が、"お母様"だ。
私の"お母様"の声だ。



