だけど、不覚にも柏原に優しく抱き締められた。


悔しいわ……
この腕の中が、一番安心できる場所なのよね。


よく考えたら、行く宛なんかなかったのよ。


柏原は「はぁ……」と盛大なため息をついた。


「禁断の恋か? 見せつけるなぁ……執事さんよ。当主のふりも見事だったぜ、そのお嬢様がバラすまではなっハハハ」



「うるさい。お前達は、どうするつもりだ? お嬢様の夕食の時間までには出ていってもらいたい」


ひげ面は柏原を睨みつけるが、柏原も負けてはいない。



「どうするかは、俺達が決める。お前は人質だ。余計な口出しをするな」


執事は、話し相手を心底バカにしたように鼻で笑うとソファに深々と腰をかけて、長い足を組む。


「能無しのくせに大口叩くな。アドバイスしてやる。俺に銃を突き付けて逃走してみればいい。適当な逃げ場をみつけて、開放してくれるなら許してやるよ。どうだ? 俺は抵抗しないし、いい人質だろ?」


「くっ……バカにしやがって」

「どうする……って……こんなつもりじゃなかったのに……」


強気な兄貴とは違って、長身の男は気が弱いのか完全に怯えているようだ。